川崎市内に5店舗を構える「おつけもの慶」は、長年青果業を営む野菜の“目利きのプロ”とキムチ職人歴40年の匠の二人が、たった一坪からはじめたお店です。お店にはお客さまが絶えず来店し、通販での購入はなんと数カ月待ちになるものも。京急川崎駅ホームには「キムチの自販機」もあるなど、日々川崎に住む人々の食卓を彩っています。なぜ、川崎でこんなにもキムチが愛されるのでしょうか?おつけもの慶を運営する、有限会社グリーンフーズあつみの代表取締役である渥美 和幸(あつみ・かずゆき)さんに話を聞きました。
「川崎はもともとコリアンタウンとして有名な街で、戦後から朝鮮民族や韓国の人々が多く生活する地域でした」と渥美さんは話します。渥美さんは、生まれも育ちも川崎。焼肉やキムチは日常的に食卓に並び、小さい頃から馴染み深かったのだそう。
しかし、時代の変化とともに韓国料理や食材のお店は減っていきました。そんな中出会ったのは、キムチ職人歴40年である城野 勝(じょうの・まさる)さん。コリアンタウンとして栄えた街だからこそ、キムチで地元を盛り上げられないか。そう考えた二人は、日本人が愛する「おしんこ」のような“毎日食べたくなるキムチ”の開発を始めたのです。
誰もが「美味しい」と思えるキムチを目指して開発を始めた二人。すぐには、理想の味にはたどりつけませんでした。作り始めた当初は酸味が強いキムチに仕上がり、全く売れなかったこともあったのだとか。お客さまの声をもとに、漬け方やキムチの味の要である“ヤンニョム”の味わいを少しずつ調整。16年の歳月をかけて、今多くのお客さまに愛される甘辛キムチのレシピにたどり着きました。
おつけもの慶のキムチは、その美味しさが口コミで広がり店舗はたちまち行列に。今ではネット通販も、商品によっては発送まで数カ月待ちになることも。「おつけもの慶のキムチ」は「2018かわさき名産品」「2019かながわの名産100選」に選ばれるなど、その美味しさはお墨付きです。
キムチの美味しさを支えるのは、最初の工程である白菜の漬け方にあります。創業当初から変わらない方法は、白菜の葉の一枚一枚に手作業で塩を塗り込むこと。「根元から葉先まで同時に漬け込もうとすると、根元と葉先の浸かり具合のバランスが悪くなってしまうんです。」と渥美さん。よく漬け込まれていない白菜は、根元がパキッと折れてしまうのだそうです。
一般的にキムチを大量に作るときには、白菜をまるごと塩水に漬ける方法や、シャワーのように塩水をかける方法で行うこともあります。ただし、徹底的に手作業で塩漬けするのがおつけもの慶のこだわり。常に一定ではない白菜の水分量を職人の経験で見極め、ベストな浸かり具合を追求しているのです。
おつけもの慶の味のカギは、丁寧に浅漬けにした白菜を和えるキムチの素「ヤンニョム」。韓国の家庭料理であるキムチは、その作り手によって少しずつ味が違うもの。おつけもの慶のキムチは、日本人の好みに合うキムチをつくるために、その調合に徹底的にこだわりました。
おつけもの慶のキムチはうま味を感じる甘さが印象的ですが、その秘密は桃を使用していること。そのほか「いかの塩辛」を使うなど、“家伝のタレ”として日本人の好みに合うように調合をアレンジ。キムチの味と色を出す唐辛子の粉にもこだわり、「辛み」「甘み」「色合い」を出すための独自の調合で理想的なバランスを追求しています。まさに、鮮やかな赤が食欲をそそるバランスの良いキムチに仕上がっているのです。
仕入れた当日に新鮮な白菜を塩漬けして、3日以内に出荷されるフレッシュなキムチ。手元に届いたタイミングのキムチは浅漬けの状態で、甘辛の中でも“甘み”が際立ちます。賞味期限に近づくほど発酵が進み、キムチ本来の味わいも楽しめるように変化していきます。
酸味が出はじめるころのキムチは、焼いたり鍋にするなど熱を加えるとまた違う美味しさで楽しめます。「僕の一番好きな食べ方は、脂の乗った豚バラ肉を熱々に焼いて、冷たいままのキムチを巻いて食べること。肉とキムチの味わいが最高なんです!」と、渥美さんが教えてくれました。キムチの味の変化も楽しみながら、食卓に彩りを添えること間違いなしです。
「キムチデビュー」にもおすすめできる一品
これまで川崎の地元の方々に愛されてきた一品。全国メディアで取り上げられる機会が増えたことから、県外からわざわざ店舗へ足を運ぶお客さんも多いのだとか。「一度食べて美味しいと思っていただいて、自分用じゃなくてお裾分け用にとまとめて買ってくださる方も多いんですよ」と渥美さんは話します。
「酸っぱいキムチが嫌い」「辛いものが苦手」そんな人にこそ、“キムチデビュー”として選んでいただきたいおつけもの慶のキムチ。川崎の地に根付くコリアンカルチャーを受け継ぎ、日々一枚一枚丁寧に漬けて作られています。その道40年の職人が生み出す、こだわりの甘辛キムチを味わってみませんか。